2006年02月

文章修行B-1

「リセットって?」
わけがわからなくて聞き返すと、
少年は堤防の上に佇んだまま、ちらりとこちらを流し見た。

「リセットはリセットだ。ほらっ、今日、山下が……」
「それって、たまごっちのことを言っているの?」

少しだけ片頬を上げただけで、少年は否定も肯定もしなかった。
いつもの皮肉な笑みよりもさらに皮肉な笑みを見据えたまま、無意識に眉根を寄せていた。
間違っている時は、たとえ相手が誰であっても、容赦なく指摘するような人だから、きっとこれは、彼流の肯定なのだろう。

山下雪乃は自他ともに認めるクラス一の美少女だ。
茶色に染めた長髪にゆるくパーマをかけ、数人の取り巻きに囲まれて女王様のように振舞っている。
そして今日の昼休み、彼女は自分の机に腰掛けて、手の中の「たまごっち」をもてあそんでいた。

「何度やっても、思いどおりに育たないのよね」
モデル並みに長い足をぶらぶらさせながら、ためらうことなくリセットボタンを押す姿が、ふいに脳裏に蘇った。
電子ペットは四六時中世話をしてやらなければ、思い通りに育たない。
そして思い通りにいかなくなると、雪乃はその都度投げ出してしまう。

飽きることなくスイッチを押し、そしてリセットを繰り返す。
数日おきに展開される行為はひどく不毛に思えたけど、別にとがめだてするようなことではないし、そもそも自分のたちの周囲から不毛でないものを見つけることの方が難しいぐらいだから、別段、気にとめたりはしなかった。

他のみんなもそうだと思っていたけど、目の前の少年だけは違っていた。
「よし、今度こそ!」
そう言ってスイッチボタンを押した途端、彼は雪乃の手から「たまごっち」を取り上げた。

「めざわりだ」
絶対零度と言っても良いぐらいの冷ややかな声。
誰かが非難の声をあげたけど、少年にひとにらみさせただけでおとなしくなった。
雪乃がわっと泣き出したのと、少年が窓から「たまごっち」を投げ捨てたのはほとんど同時だった。

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何年か前に爆発的に流行した「たまごっち」が、今また流行っているそうで。
せっせと世話をするのは良いとして、思うようなキャラにならなければあっさりリセット、というのはいかがなものでしょう?
前回のフィーバー時に思いっきりはまっていた私に言えることではありませんが、第三者的な立場から見ると、何となく不気味な気がします。

オカリナ

24日に金曜日に宗次郎のオカリナコンサートに行ってきました。
会場は宇部の渡辺翁記念会館。
6時半スタートだったので会社を休んで行ったのですが、帰宅したのは午前1時。宇部は意外と遠かった(^^;

オカリナと言えば「コンドルは飛んでいく」。
「コンドルは飛んでいく」と言えば、アンデス地方の民族音楽ということで、何となくオカリナも南米の楽器かな、と思っていたのですが、そうじゃなかったです。

オカリナは北イタリアの小さな村で生まれた陶製の楽器で、イタリア語の小さなガチョウ「OCARINA」という言葉がその名称の由来だと言われているそうです。
チロル地方の吟遊詩人たちが全ヨーロッパに広めていったそうですが、オカリナと吟遊詩人の組み合わせ……ちょっと意外な感じかな。

コンサートで聞いたお話によりますと、宗次郎さんがオカリナの音色に感動したのが20歳ぐらいの時で、それから10年間は栃木県の山の中で、ひたすらオカリナを制作していたのだとか。
そして完成したオカリナの数は1万個以上。
その中からこれはと思う10数個を手元に残し、演奏に使っているのだとか。
(残りのオカリナはどうなってしまったのだろう?)

1万個の中から選び抜かれたものだけに、本当にすばらしい音色でした。
オカリナは音域が狭いので、演奏できる曲はおのずと限られてくるわけですが、クラッシックから日本の楽曲まで色々聞けて楽しかったです。

「オカリナってあんなにきれいな音だったっけ?」
AKETAのオカリナを持っているので、同じ曲を吹いてみたら、全然でした(>_<)
オカリナが悪いのか、吹き手が悪いのか。
もちろん後者です。

続きのこと

「文章修行A」の続きのリクエストをありがとうございます!
リクエスト下さった方が非公開部屋のパスワードをお持ちだったので、あちらにアップさせて頂きました。

非公開部屋は読者様を特定しているだけで、年齢制限などは一切ございませんので、続きが読みたいという方は「非公開部屋について」をご一読の上、お気軽にメールして下さいね。
折り返しパスワードをお送りします。
(お送りしても返ってくることがたまにありますが(^^;)

私が小説を書くようになったのは、自分が読みたい幕末小説がなかなか見つからなくて、それなら自分で読みたいものを書いてみようかという、安易な理由からだったりします。

幕末小説以外については、おもしろい作品がいくらでもあるので、自分で書く必要性は全く感じないわけですが、史実に基づく作品というのは調べる作業が大変でして、文章そのものはついつい二の次、三の次になってしまいます。

調べ物抜きで作品を書けば、少しは文章修行につながるかなあ、と思いつつ書いたのが「文章修行A]でして、安心して読んで頂けるよう、最後はハッピーエンドでまとめてみました。

文章修行A-2

「ばらばらに切り刻んで天守閣に吊り下げてくれようか」
そうすれば少しは溜飲が下がるやも知れぬ。
そう言って嫣然と微笑む女を見つめたまま、姫君は金縛りになったように動けない。
死ぬことはとっくに覚悟していたが、ぎらりと光る刀身を突きつけられ、吹き出すような憎悪を向けられた途端、がくがくと身体が震え始めた。

「……銀星……」
無意識にその名を口にした途端、
自分に向かってまっすぐに振り下ろされる白刃が視界の中で大きく歪んだ。
ふわりと浮かび上がるような浮遊感に包まれたまま、姫は吸い込まれるように目を閉じた。

断末魔の苦しみは、いつまで経っても訪れない。
夢と現(うつつ)のはざまで、ひどく懐かしい夢を見た。

人質としてこの国へ連れて来られたのは八歳の時だった。
それから今日までの七年間、ずっと離れの屋敷に閉じ込められたまま、外に出ることは許されなかった。

小国だった母国が少しずつ力をつけていくにつれ、
周囲の風あたりは厳しくなり、訪ねて来る者もいなくなってしまったが、毎日のように姿を見せてくれる友がいた。
けれどもそれは人ではなく、ふさふさした尻尾を持つ銀色の大きな狐だった。

国境には広大なすすきの原が広がっていた。
その原を抜けるには駕籠で丸々一昼夜。
そしてその先では、見知らぬ国の人々が姫を待っているはずだった。

その夜は見事な満月だった。
月光を浴びてたなびくすすきの原がどこまでも続く中、駕籠に戻れとしきりに言ってくる従者の声をどこか遠くで聞きながら、じっと空を見上げていた。

空を覆い尽くした星々が、一つまた一つと流れていく様が、怖いほどに美しくて、身体が冷え切ってしまっても、目を離すことができなかった。

どのぐらいそうしていただろう。
背後に佇む人の気配にふと振り返ると、護衛の衣装を身につけてはいるが、見たことのない青年が立っていた。
吊り上がった切れ長の目がどこか冷たい印象を与えるが、月光を浴びて佇む姿は、絵姿に描かれた源氏の君のように優美だった。

-----------------------------------つづく

戦争ものから和風ファンタジーに転調してみました。
ご希望頂ければ完結しますが、なければこのあたりで……。

文書修行A-1

「殿がたった今ご自害遊ばされました」
それだけ一気に言ってから、
血まみれになった顔を畳に額を擦り付けて、
若い兵は戦場へと駆け戻っていった。

呆(ほう)けたように佇む女たちの間から、
突然、狂ったような笑い声が聞こえてきた。
「妙子様、妙子様、お気を確かに!」
すがりついてくる侍女の手をわずらわしげに払い、
国主の寵姫だったその女は、
手にした懐剣を自らの喉に突き立てた。

びゅっと血のしぶく音がして、
襖に赤い花が咲き、
締め切った座敷には
生々しい匂いがたれこめた。

一斉にあがった女たちの悲鳴を、
一瞥で制したこの国の正妃は、
ひときわ豪華な衣装をゆるやかに引きながら、
座敷の隅で蒼白になっている敵国の姫君の方に向き直ると、
手にした書状を広げて見せた。

「そなたの父はそなたを返して欲しいそうじゃ」
思いも寄らぬ言葉を耳にして、
姫は思わず身を乗り出した。
その腕を左右の兵士らが荒々しくつかんだ。
痛みに眉をひそめながらも、書状に向かって目を凝らした。

 無事に引き渡してくれれば、
 城の女たちの命は助けよう。
 だがもしも姫に万一のことがあれば……。

さらに続きを読もうとした所で
書状は無残に破り捨てられてしまった。
細かく裂かれた紙片がはらはらと散り落ちて
畳に白いまだら模様を作り出すのを悲しげに見つめたまま、
姫はがくりと膝をついた。

「それほど娘の命が惜しくば、戦などしかけてこねばよいものを」
女は冷ややかにつぶやいて、
護衛が差し出す見事な拵えの刀を無造作につかんだ。

-------------------------------------つづく
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